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忘れられた芝書店街(2025/11/29)

  • 乙原李成/Otohara Risei
  • 11月29日
  • 読了時間: 2分

2025年9月、世界55か国333都市を紹介するサイトTimeOutが、神田神保町を今もっともクールな街と紹介。

神田神保町は「神田古本まつり」が開催されるなど、古本と喫茶店とカレーを愛する人々から長らく親しまれてきた。本の街になったきっかけは、明治初期に大学南校(現在の東京大学)と商法講習所(現在の一橋大学)が開校したこと。正則と呼ばれた外国語による授業に使うため、学生たちは洋書や辞書を買い求め、卒業するとそれらを売ってしまう。1875(明治8)年出版条例改正による内務省への届出、1883(明治16)年の古物商取締条例が古書店と新刊書店を分離させた。1904(明治37)年東京市電の九段線小川町-九段下間開業は、一層集客につながった。


江戸時代に出版業がさかんだったのは京、大坂、江戸であり、版元が問屋をつくり、仲間内である行司の審査ののち、印刷販売した。天保の改革での問屋株式仲間廃止、嘉永年間の問屋組合再興など景気の変動があった。『武鑑』の須原屋や珍書収集の達磨屋(『燕石十種』)などが知られ、新刊古書取り交ぜた商い、重版(海賊版)の取締りもした。


その延長線上でさかんだったのが、今はなき、芝神明前や芝日蔭町とよばれた一帯の書店街だった。明治30年代頃までの話。東海道だった国道15号線(第一京浜)の浜松町駅前からさらに北に数十件の書店がひしめいた。1887(明治20)年に東京書籍出版営業者組合が結成される前は、京橋山城屋の稲田政吉(1853-1916)が古書籍商の頭取をした。個人があちこち巡って買い求めたのを、別の書店に持ち込んで買取をしてもらう、今でもあるセドリで仕入れをしていたという。1907(明治40)年から東京美術倶楽部があり、大正から昭和にかけては三業地(花街)として栄えた地域でもある。


近年ブックオフ(1990年1号店開店)による新古書、ブランド品買取が盛んな一方、新刊書店がここ20年で半減した。(出版科学研究所調べ)

独立系書店という、小規模ながら新刊古書取り交ぜた商いをする若者が増えつつあるのは、ある意味では先祖返りなのかもしれない。


参照

誠心堂書店エッセイ

デジタル版港区史-通史編-近世 下

デジタル版港区史-通史編-近代 下

『京阪書籍商史』(出版タイムス社1928年)

上里春生『江戸書籍商史』(出版タイムス社1930年)

『紙魚の昔がたり』上、下(訪書会1934年)

『東京古書組合五十年史』(東京都古書籍商業協同組合1974年)

鹿島茂『古本屋の誕生』(草思社2025年)


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五ヶ国異人酒宴之図 歌川芳員(一川芳員)1861(文久元)年作

芝山城屋甚兵衛(山甚)版行 ※ブログ管理人個人蔵

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