明治22(1889)年大日本帝国憲法発布と同日、西郷隆盛(1828-1877、号南洲)は特旨により、元の正三位に復した。
その直後から顕彰の出版物が続々著されることになった。
明治22(1889)年渡辺朝霞(新聞記者)『維新元勲西郷隆盛君之伝』(文事堂)
明治23(1890)年三矢藤太郎(旧庄内藩士)『南洲翁遺訓』
明治27(1894)年勝田孫弥(旧薩摩藩士)『西郷隆盛伝』全5巻
明治29(1896)年片淵琢(旧佐賀藩士)『西郷南洲先生遺訓』
明治32(1899)年『西郷隆盛』(少年読本第18編)(博文館)
明治43(1910)年伊藤痴遊(講釈師)『西郷南洲』正、続、外編(東亜堂)
『南洲翁遺訓』はいまでも読み継がれる名著のひとつ。
明治から令和にいたるまで、大同小異の書名で50冊以上出版された。
戊辰戦争後の寛大な処置に庄内藩士が感銘し、西郷隆盛の言動、思想を書き残したもの。
「敬天愛人」や「命も要らず、名も要らず、官位も金も要らぬ人」の出典がここにある。
大正15年政教社が出版したのは珍しい1冊で、玄洋社を率いた頭山満(1855-1944)の講評が付されている。
『日本及日本人』(政教社)の西郷隆盛に関する連載とは別に、1925年1月1日号掲載記事を単行本にしたもの。
福本日南(1857-1921)の『九州日報』にいた記者が、面識があった頭山満の閲覧に供し、講評をあおいだという。
天を語り、道を説くのは老荘思想の影響であろうが、国と国の折衝には『春秋左氏伝』『孫子』を読むとよいとある。
吉田松陰が評価していたという、大塩平八郎の『洗心洞箚記』にも言及している。
また、大隈重信、井上馨、山縣有朋、大久保利通といった、明治の元勲のエピソードが次々回想されるのが面白い。
編者の雑賀博愛(1890-1946)は連載記事や本書を補い、昭和12年から『大西郷全伝』を出版し、業績を後世に伝えた。
参考
『官報』号外(明治22年2月11日)、第1683号(明治22年2月12日)
山路愛山『南洲全集』(春陽堂1915年)
雑賀博愛「大西郷と其時代」1-136『日本及日本人』(政教社)1922年9月15日-1929年9月15日
雑賀博愛「『大西郷と其時代』に就て」『日本及日本人』(政教社)1929年10月15日
猪飼隆明訳・解説『南洲翁遺訓』新版(KADOKAWA2017年)
福岡県朝倉市 ふるさと人物誌39(令和6年2月23日閲覧)

(署名「南洲」)京都府『先賢遺芳』(更生閣書店)より
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