(承前)
解説
本書は海軍大学校の教材として、甲種19期の卒業直前、大正10(1921)年10月に謄写版印刷されたものである。
表紙の「普」という略字は、秘扱いではないことを表すのだろう。
「全105部ノ内第23号」とあるので、見学者と報告会の受講者をあわせてその程度の人数だったことがわかる。
ブログ管理人は、この報告書をヤフオクで古書店から入手した。
残念ながら21ページ目が欠落しているほか、酸性紙の劣化がすすんで、酢酸臭が強かった。
錆びたホチキスを外したあと、片面印刷なのを1枚ずつ裏打ちし、保管してきた。
明治21(1888)年東京、築地に置かれた海軍大学校には、海軍大学校文庫という附属図書館があった。
そこでは和漢書辞書体目録という、書名、著者名と件名を組み合わせた冊子目録を編纂していた。
探し方にコツがあるようで、「海軍」「交通」「東亜経済調査局」「南満洲鉄道」といった単語では、同じ報告書は見つけられなかった。
(「国立国会図書館オンライン」から閲覧。https://id.ndl.go.jp/bib/000000662083)(令和6年1月19日閲覧)
「アジア歴史資料センター」ホームページから類似の報告書がないか検索すると、以下のようなものがあった。
・「33年11月17日 元選科学生海軍中佐江頭安太郎の著作に係る国法学審査報告の件」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C10126964900、
明治33年 公文雑輯 巻2 儀制2止 教育 演習1(防衛省防衛研究所)
・「選科学生海軍少佐西野勝之助実験研究報告(1)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08020399100、
大正3年 公文備考 巻14 学事2止(防衛省防衛研究所)
また、国立情報学研究所が運営するCiNiiで、大学図書館、研究機関の所蔵資料を検索すると、以下のようなものがあった。
・ラウル・カステックス著、海軍大学校訳『戦略理論』(海軍省教育局1935年)
・海軍大学校研究部編『文権と武権』(海軍省教育局1937年)
本書は緒言に続き、見学者による所感がいきなり書かれたあと、東亜経済調査局の沿革、現状、将来、資料取扱規則が紹介される構成になっている。
緒言の執筆者は森(電三)大佐。(『官報』第2776号、大正10年11月2日、44ページ2段目)
図書館、調査機関には専任の担当者がいなければ資料整理と出納が行き届かず、「公正ナルヲ得ズ」(1ページ)と断言している。
「今ヤ本校図書中價値アルモノハ概ネ散出シテ残ルナシ書ナキニ非ス來ルモ従ツテ散ズルナリ散ジテ容易ニ歸ラザルハ独専者アレバナリ」(4ページ)
という所感のあからさまな表現が痛々しい。
報告者には、のちの連合艦隊司令長官、小沢治三郎(11ページ)が参加していた。(大正8(1917)年12月入学。『提督小沢治三郎伝』(明治百年史叢書))
前年の報告を参照した見学会であり、松岡均平東京帝大教授(東亜経済調査局の設立以来関わりがあった。)の講話も転載されている。(6-7ページ)
東亜経済調査局の紹介は、公刊された『東亜経済調査局概況』を参照して執筆されたが、三菱十三号館にあったときの配置図(14-15ページ間)が珍しい。
その将来への期待として、「規模ヲ擴張シ國立機關ト為スヲ理想トス」(20ページ)とあるのは、後藤新平が原内閣に調査機関設置を訴えた史実に通じるものがある。
(「後藤新平略年譜」(後藤新平記念館ホームページ)https://www.city.oshu.iwate.jp/shinpei/shogai/1306.html)(令和6年1月19日閲覧)
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